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第119話 約束を破る夜①

作者: 花柳響
last update 公開日: 2026-07-12 06:00:43

 時計の針が、深夜の零時を回ろうとしていた。

 私は私室の窓際に置かれたアンティークチェアに深く腰掛けたまま、暖炉の火が消え、冷気が這い上がってくるのを感じていた。

 テーブルの上には、昨夜透が叩きつけるように置いていった薄い茶封筒が、朝から一ミリも動かされることなく横たわっている。

 今朝、玄関の車寄せに用意されていた「水科の家へ帰るためのハイヤー」は、封筒にサインしないまま、私が黒瀬に「必要ありません」とだけ告げて送り返した。

 それに対する美津子からの直接のアクションはない。だが、一日中、部屋の外を通り過ぎる使用人たちの足音が、いつもより硬く、ひどく神経質に響いていた。

 窓の外から、白砂利を重いタイヤが踏みしめる音が聞こえてきた。

 暗闇の庭園に、ハイヤーのヘッドライトの光が鋭く差し込む。

 透が、帰宅したのだ。

 私は立ち上がり、カーディガンを羽織って部屋の扉を開けた。

 フットライトだけが灯る薄暗い廊下を、足音を殺して玄関ホールの方へと向かう。

 大理石の床を踏む、硬い
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